特定非営利活動法人バイオミメティクス推進協議会

ご挨拶

バイオミメティクス -模倣こそが持続可能なイノベーションである-

 

 

 

 「生物に学ぶ」という考え方は古くからあり、特に日本人には馴染み易い考え方です。レオナルド・ダ・ヴィンチが鳥の飛翔に学んで飛行機械の設計をしたことは有名です。海綿を模倣した洗浄スポンジ、絹糸を真似た合成繊維、植物の種子をヒントにした面状ファスナー、カワセミの嘴に似せた新幹線の形状など、我々の身の回りには多くの生物模倣(バイオミメティクス、biomimetics)があります。今世紀になって、バイオミメティクスに対する世界的な関心が高まり、すでに国際標準化が発効されるに至っています。蓮の葉に学んだフッ素を使わない撥水材料、モルフォ蝶を真似た色材を使わない発色繊維、サメ肌を模倣した航空機の流体抵抗低減塗装、魚群に学ぶ自動運転アルゴリズム アリの社会性を模倣した“IoTを支える自律分散制御型ロボット、アリ塚のパッシブクーリングにヒントを得た省エネ空調ビルなどが開発され、居住性、流通性、レジリエンス、ロバストネス、フェールセイフなどを生態系システムに学ぼうとする”biomimetic smart city”と称される環境都市設計構想も始まっています。今やバイオミメティクスは、分子レベルの材料設計から、機械工学、建築、環境都市設計に至る総合的な技術体系となりつつあります。

 

 バイオミメティクスの基盤は、言うまでもなく生物の多様性です。生物多様性は、長い時間をかけて様々な環境において生物が生存してきた進化適応の結果です。生物多様性を可能とした『持続可能な高炭素世界の完全リサイクル型技術』ともいうべき生物の生き残り戦略は、どこにでもあるユビキタス元素を使い、再生可能エネルギーを用いた自己組織化プロセスによるモノづくりであり、産業革命以来の人間の技術体系とは作動原理や製造プロセスのパラダイムが異なっています。バイオミメティクスは、生物の生き残り戦略に学ぶことで、資源やエネルギー、気候変動等の現代社会が抱える喫緊の問題を解決し、持続可能性のための技術革新のヒントをもたらすものと期待されています。

 

 バイオミメティクスを「生物規範工学」ともいうべき持続可能な総合的技術体系として実現するためには、我が国が最も不得意とする異分野連携が不可欠です。生物の技術体系が、持続可能な炭素循環型社会を可能としている背景には、壮大なるコンビナトリアル・ケミストリーとも称すべき進化適応のプロセスがあります。長い時間をかけ、多様な環境条件下において、物理・化学の法則・原理の組み合わせを最適化することで、生産プロセスや機能発現のパラダイムが決定されたのです。つまり、自然界には何億年にも亘る試作と評価を終えた技術が、生物の生きる仕組みとして使われ続けているのです。壮大なるコンビナトリアル・ケミストリーの結果である膨大な生物学の知見を工学に技術移転する必要があります。生物と工学の異分野連携のためには、ビッグデータである生物多様性からのリバース・エンジニアリングを可能とするバイオミメティクス・インフォマティクスとも言うべきデータベースの整備とテキストや画像を対象とした多様な情報検索システムが求められます。

 

 バイオミメティクスの社会実装に求められるもう一つの異分野連携は、生物多様性と生態系サービスの価値を認識しその保全と持続可能な経済活動を目指す『生態系と生物多様性の経済学(TEEB: The Economics of Ecosystem and Biodiversity)』に代表される、自然の循環と経済社会システムの循環の調和を求める社会系科学分野との文理融合です。バイオミメティクスを生態系サービスと捉えることにより、制約された環境の下で持続可能なモノづくり街づくりの技術革新をもたらす切り札になり得るのです。持続可能な開発目標(SDGs :Sustainable Development Goals)に向けたパラダイムシフトとイノベーションをもたらす社会エコシステムであるバイオミメティクスを確立するためには、生物科学、材料科学、機械工学、建築学、都市工学、情報科学、環境科学、経済学、社会学、芸術などの諸科学間の異分野連携、産官学連携、地域連携、国際連携など、様々なステークホルダーのためのプラットフォームが不可欠なのです。

 

 特定非営利活動法人バイオミメティクス推進協議会は、Biomimetics Network Japanとして我が国のナショナルセンターをめざし、学協会、大学、博物館、研究機関、NPO法人、産業界などとの連携を深めて参ります。

特定非営利活動法人バイオミメティクス推進協議会

理事長 下村 政嗣